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2017-11-17

帰沖だぜ。

飛行機に乗るのは、いつもどこかに帰るときだ。

沖縄から名古屋、名古屋から沖縄。沖縄から東京、東京から沖縄。2つの場所に家があって行き来していると、どちらが自分の場所なのかわからなくなる。名古屋や東京にいるときは、つとめて過去をたぐり寄せて、なぜ自分がこの場所にいるのかその理由を探す。なぜこの場所にいるのか、はっきりとした理由が見つけられないと不安になる。

 

*****

 

ひどく疲れていた。

飛行機の出発時刻は15時半。目が覚めたのは9時頃だったと思う。でもどうにも起き上がる気持ちになれない。そのまま枕に顔をうめて再入眠。目覚めて出発時刻を過ぎていたら帰沖予定はキャンセルだ、と投げやりに思うが、ギリギリの13時46分に運良く目が覚めたので、急いでスーツケースに服とパソコンをつっこみ、部屋を出た。

飛行機には余裕で間に合った。私の右には窓、左には3人家族があった。1歳くらいの幼児を膝に乗せたお母さんとお父さん。たまにギャアと幼児が泣き、お母さんが「すいません」と私に向かって頭を下げる。そんなにあやまることないのにと思う。ただギャアと幼児が泣くたびに私の心臓は鼓動を早める(小心者なのだ)。カバンから二切れパックの文明堂おやつカステラを取り出すと、幼児がくりっとした邪のない目で見つめてきた。どうだいいだろう、これが大人の贅沢おやつだ。一切れをつかんでむしゃむしゃ食べた。

そのうち幼児は寝てしまって、その頭が私の二の腕にもたれかけられた。ぬくい。幼児の頭ひとつぶんのぬくもりに妙に安心して、私も眠くなってくる(あんなに寝たのに)。子どもの体温って高いんだっけとぼんやり思う。

 

目が覚めたら、隣の家族はいなくなっていた。どこか広い席に移動したのだろうか。ぽっかり空いた席から窓へと目を移すと、外はすっかり暗くなっていた。地球の自転によって太陽から顔を背けた格好だ。エネルギー供給が絶たれたこの場所は、これからどんどん冷たくなる。

外が暗くなるのと同時に、窓に自分の姿が薄く映し出される。することもないのでじっと窓をのぞいていると、自分の手がいつもよりすらっとして見えることに気づいた。指なんか長くてとてもスタイリッシュ。浅黒くずんぐりしたあまり好きになれない自分の手が、窓越しにはとてもかっこいい手に見える。

もしかしたら私は自分自身が思っているよりもすてきな手を持っているのかもしれない、と一瞬自己イメージをよいほうに修正しかけたが、少し伸びてみえるのは飛行機の窓が凸状ゆえだった。なんだ。ちょっと騙されたような気持ちになる。

そうはいっても窓越しの手はすてきなので、いい気分になって指を曲げたり伸ばしたりポーズをとったりして、窓の歪みが生んだ理想の手を堪能した。そしてその手で一切れ残っていたカステラを取り出し、むしゃむしゃ食べた。生きている限りエネルギーを供給し続けなくてはならない。

 

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