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2017-10-05

きっとエモい。

21歳、札幌。すっかり冷えてきた夏の終わり。

大学3年だった私はくるりのハイウェイにそそのかされて、ふらふらと旅に出ていた。同じゲストハウスにそいつも泊まっていた。

バイク乗りのそいつは北海道をツーリングするため大阪から船で来ていた。年は私のひとつ上、大学4年。就職も決まって最後の夏休みだという。物腰が柔らかく、顔もかっこいい。そして何よりさわやかだった。ふたりしか泊まっていないそのゲストハウスの居間で、次の日一緒に札幌をまわろうと約束した。

朝、まずは緊縛されたリカちゃん人形が大量に陳列されている不思議な場所に行き(なぜそこに行くことになったのか理由はぼうばくのかなた)、お昼は回転寿司屋へ。札幌で一番おいしいというその回転寿司屋のスシはとにかくネタが大きかった。カニの甲羅がでんと乗った味噌汁ももらった。

午後は時間を持て余し、そいつのバイクの後ろに乗っけてもらって遊んだ。私はノーヘルだから、公道には出ずに駐車場をぐるぐる回るだけだ。スピードは出てないはずなのに、ビビリの私は身体が直に感じるスピードとそいつとの距離の近さに対する興奮でギャーギャー騒いでいた。初めての二人乗りだった。もっかいもっかいとせがんでぐるぐる駐車場を何周もしていたら、通りかかった散歩中のおじさんにしこたま怒られた。

「ヘルメットがもうひとつあればね。丘の上のふれあい動物園まで一緒に行けるんだけど」と言うそいつ。魅力的な提案。しかしヘルメットはひとつしかない。

 

夕方、ゲストハウスに戻ると新しい宿泊客が来ていた。20代中盤の女性。きれいな人だった。

夕飯はその女性も一緒に3人でカニラーメンを食べに行った。ふたりのほうが良かった、などという気持ちを表に出さないように気をつけながらズルズル麺をすすった。おいしい。ついでにラーメン汁で炊かれたおにぎりもひとつ食べた。

 

夜、また新しい宿泊客がやってきた。リトルカブ乗りの30代なかばくらいの男性。頭はくるくるパーマ。「お、ヘルメットがやってきたぞ」と私はドキドキした。そしたらちょうど「明日もバイク乗るんですか?」とそいつがおじさんに聞く声が聞こえてきた。胸を高鳴らせながら耳をそばだてると、「明日はのらんよ、札幌を観光するからなー」とパーマのおっさん。しめしめ。「ヘルメットをお借りしても……」とそいつが言いかけたところで、きれいな女性が私に「明日、一緒に大通公園の屋台見に行かん?」と聞いた。ぼんやりしていた私はつい「はい、行きましょう!」と返してしまった。いやいやいや、違う。明日は借りたヘルメットを頭に、二人乗りでふれあい動物園に行くのだ。でも流れに乗って「行きましょう!」って、言ってしまった。しこたま後悔したが、「明日はふれあい動物園に行くんです!」と前言撤回して言う度胸はなかった。なんだか恥ずかしくて。

結局、次の日はおとなしく大通公園へ、その女性とふたりで向かった。なんか串に刺さったくるくるのポテトを屋台で食べたような気がするけどあまり覚えていない。

その夜、23時発の船に乗って大阪に帰る予定だったそいつが、ゲストハウスに帰りのあいさつに顔を出した。ひとりでふれあい動物園行ってきたらしい。いくつか言葉を交わしたあと、そいつは「じゃあね」と言い、すぐに下の駐車場へ戻っていった。そっけない。私はしばらく居間でじっとしていたが、たまらなく外に飛び出し駐車場に向かった。今日は一緒に行けなかったけど、連絡先を聞こう。また会いたい。またバイクの二人乗りしたい――。

 

急いで向かった駐車場に、バイクはなかった。もちろんそいつの姿もない。9月の札幌は寒くておなかのあたりがぎゅっと縮み上がった。

 

*****

 

恋にはならないくらいの淡いなんかもやっとした思い出。もどかしい。肌寒くなってきた頃、ふっと思い出す。ふっと思い出しては、あいつは今頃、大阪でかわいらしい奥さんと一緒で、もしかしたら父親にでもなっているのかもしれない、と妄想の沼をつくってちゃぷちゃぷ足踏みしている。私はあいかわらず、あの頃と同じくらいふらふらしている。ふらふら、ふわふわしながら、カタカタしている。いろんな話を聞きながらカタカタしている。

 

 

 

 

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